失われたロープウェイ

熱海高原ロープウェイ
  
熱海高原ロープウェイ 乗車券

静岡県の東部、相模灘に面し神奈川県と隣接する熱海は、首都圏近郊の温泉保養地として全国的に知られる街。熱海といえば「高度成長期型観光地」というイメージがありますが、近年は海沿いのロケーションを生かした「おしゃれな温泉リゾート」を目指したまちづくりが進められています。

昭和30年代の熱海は、ハネムーンや団体社員旅行のメッカとして関東エリアを中心に全国から多くの観光客が訪れ、1961年(昭和36年)には年間入り込み観光客数が1000万人を突破(1150万人)し、当時全国第2位の別府(大分県)の570万人の約2倍(参考: 1970年 熱海市編纂 熱海市史)という、文字通り「日本一」の温泉観光地として空前の賑わいをみせていました。

1964年(昭和39年)には東海道新幹線が開通、街には次々とレジャー施設が完成し、ホテル・旅館の大型化・近代化が進みます。今回紹介するロープウェイは、そんな昭和の観光ブームに湧き立つ熱海で生まれた索道です。



伊豆スカイラインの玄岳ICを少し過ぎると、熱海側に異様な存在感を放つ薄緑色の巨大な建物が現れます。この建物が、かつての熱海サボテン公園ロープウェイ(通称:熱海高原ロープウェイ)の山頂駅舎を兼ねていた玄岳ドライブイン。同索道は「熱海サボテン公園」の施設の一部として1967年(昭和42年)に開業し、約3年という短い営業期間で休止した民営の索道です。

熱海市街の西側のJR伊東線来宮・伊豆多賀間のトンネルの真上あたりにあった熱海サボテン公園は、2つの大型ドーム温室と2棟の建物から成る熱帯植物園。植物園から頼朝ラインを挟んだ上ノ山のロープウェイ山麓駅までは、全長140mの「タイムトンネル」と呼ばれる隧道で接続されていました。

トンネルから高低差88mのゴンドラ発着所までは20人乗りの大型エレベーター2基によって結ばれており、そこから玄岳(くろたけ:標高670m) の山頂駅までの水平長2600mを、4線交走式の大型搬器が往復していました。また山頂駅近くの氷ヶ池は「高原の湖」として整備され、ヤギの牧場や遊覧ボート等の施設が作られ、東洋のナポリと言われた当時の熱海を象徴するかのような一大リゾートが形成されていました。(下のイラストは当時の案内図)

熱海高原ロープウェイのマップ

とにかくすべてのスケールが大きく、山頂駅の駐車場は乗用車1000台、大型バス300台のキャパがあり、ドライブインの食堂は300人収容、索道の第2支柱から第3支柱(玄岳側の2基)までの径間1140mと121人乗りのロープウェイ搬器は当時世界一であったと言われています。

索道休止後、サボテン公園の方は数年間営業した後に閉園し、現在跡地には大型ホテルが建っています。山頂駅の玄岳ドライブインは、サボテン公園の閉園後も、閉鎖期間を挟みながら不定期に営業を続けていました。

ドライブインの建物は一見して観光索道の駅舎と分かる外観なうえ、ゴンドラの発着所がそのまま残っていたので伊豆スカをよく利用する人達の間では、ここがかつて索道の駅舎だったという事は昔からけっこう知られていました。しかし、索道自体の出自について語られることは殆ど無く、近年ではむしろその広大な駐車スペースや、床がコンクリ製なので、雨でズブ濡れのライダーでも気軽に利用させてくれることで有名なドライブインでした。



訪問記】 2002年4月

私が訪れた時はドライブインはまだ営業中で、写真の乗車券はその時にお願いして戴いたものです。


玄岳ドライブイン(熱海高原ロープウェイ山頂駅)
お店の方の話によると、ドライブインの利用者からはロープウェイに関することよりもドライブインの建物の重厚な意匠について、特に建築・アート関係の方からよく質問を受けたそうで映画監督の鈴木清順氏もこの建物に大変興味を持ち、映画(ピストルオペラ/2001年)の撮影を行ったそうです。

店内の「乗降口」という文字の残るガラス扉越しに見渡す駿河湾方向の景観は素晴らしく、遥か山麓方向を眺めていると、たくさんの笑顔の観光客を乗せた大型搬器が行きかう様子が瞼に浮かんできます。

ドライブインのみやげ物売り場の一画には年季の入った大きなサボテンがいくつか陳列されていて、私にはそれが幻の巨大レジャー施設「熱海サボテン公園」の忘れ形見に思えてなりませんでした。

熱海高原ロープウェイ乗降場

索道データ
名称 熱海サボテン公園ロープウェイ
事業者 熱海高原観光
所在地 静岡県熱海市
山頂駅名称 玄岳
山麓駅名称 熱海
開業 1967年10月1日
廃止 N/A 
索道の方式 4線交走式
水平長 2648m
傾斜長 2678m
高低差 373.95m
支索の最急勾配 22.49°
支柱(基) 3
搬器の種類・数 箱型 2
搬器の名称 あたみ/さぼてん
最大乗車人数 121人
施工 安全索道

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